ピカチュウ誕生秘話

『ピカチュウのことが好きすぎたので』

1996年、『赤・緑』発売前の年賀状(左下)とその原画。
ピカチュウのデザインがやや異なっている。

開発段階におけるゲームフリーク社内での評判は、どうだったのでしょうか?

杉森:出来上がっていたドット絵のポケモンをプリントして「一覧の中でどのポケモンが好き?」ってアンケートをとったら、ピカチュウが断トツだったんです。このアンケートは、ゲームの容量制限で登場させるポケモンを取捨選択するためのアンケートでした。

にしだ:だいたい最終形態が削られていましたね。2回進化させるよりはバリエーションを求めていたんだと思います。

西野:このアンケートは、単純に見た目だけで評価していました。ゲーム中の能力値とか、そういう部分は設定していない段階だったので、使い勝手とかは、まだ関係ありませんでした。

ということは、ピカチュウは人気が出るんじゃないかと予想していたのでしょうか?

杉森:社内アンケートで断トツだったこともあって、ゲームの説明書に描かれる15匹くらいの公式アートの中の1匹に選ばれるくらいにはなっていましたが、その頃はまだ、プレイヤーの皆さんの反応までは予想していません。

ピカチュウのゲーム設定で何か特別なことがあったんでしょうか? たとえば、ピカチュウの図鑑番号の「25」って、何か意味があるんですか?

西野:ポケモンの図鑑番号は、だいたいゲームに出てくる順番でつけているんです。図鑑を埋めながらゲームを進める際に、突然番号が飛んだりしすぎないように。

杉森:だからピカチュウの「25」についても、特別な意味はないですね。

では、そのほかに何か特別な設定はあるのでしょうか?

西野:実は僕がピカチュウのことが好きすぎたので、プレイヤーの方に「簡単に見つけてほしくない」と思って、「トキワのもり」での出現率を低く設定して、見つかりにくくしたんですよ(笑)。

杉森:謎の独占欲ですね(笑)。でもそうしたことで、逆に価値のようなものが生まれたんですよ。

西野:プレイヤーの間で「最初に出てくるめずらしいポケモン」みたいな扱いになったんです。だからみんなにほしがられましたし、攻略本などにも「ピカチュウをまず捕まえよう」と書かれてしまいました。その結果、みんながピカチュウを持っているという……。完全に意図が裏目に出てしまいました。

『鋭い読み』

ポケモンはゲームだけではなく、アニメやグッズなど、さまざまなクロスメディア展開によって広がっていきました。

杉森:アニメが始まる前でも、当時展開されていたいろんな商品には、たいていピカチュウが入っていました。フィーチャーされているのがわかったので、やはりピカチュウは人気があるんだなあと感じていました。

ピカチュウの人気って、テレビアニメ『ポケットモンスター』で主人公サトシのパートナーになったことも、理由として大きいですよね。

杉森:それはアニメの湯山監督のご判断でしたね。ゲームと同じようにフシギダネ・ヒトカゲ・ゼニガメの3匹のどれかがパートナーになるよう設定したら、その1匹を選ばなかった視聴者にとってギャップが生まれてしまうので、ゲームでは最初に選ぶことができないポケモンにしたかったそうです。そのときすでに、ピカチュウの人気の熱みたいなものを、なんとなく肌でも感じられるほどにはなっていたと思うので、ピカチュウが選ばれたのだと思います。当時はインターネットの情報もほとんどなかったので、ユーザーの皆さんの具体的な反応までは直接届いてはいませんでしたが。

アニメでサトシのパートナーに選ばれたときの感想は、いかがでしたか?

にしだ:不思議と「あ、そうなんだ」というくらいの印象でした。

杉森:リザードンのように立派に進化していくわけでもないし「どうやって強くなっていくんだろう」と当時はそう思いましたけど、「かわいくて強い」というイメージで20年以上やってきているので、鋭い読みだったんだなと思います。

ピカチュウが動いたときの印象は、いかがでしたか?

にしだ:純粋に「かわいい!」って思いました。

杉森:アニメ化されたことによって、我々が影響を受けたこともありました。アニメでは人間っぽい仕草など多彩な動きをするので、ピカチュウの体型も芝居がしやすいように変化していきました。最初はずんぐりした体型だったけど、徐々に首がはっきりしていって、背筋が伸びていっているんです。アニメ放映後に発売された『ポケットモンスター』シリーズに登場するピカチュウは、アニメでの表現に影響を受けていると思います。あとは、まさか「ピカチュウ!」って鳴くとは思わなかったですね。例えるなら、猫が「ネコ!」って泣くのと同じじゃないですか(笑)。「チュウ」じゃないんだと……。

西野:大谷(育江)さんの声が、すごくいいなあって思いました。

杉森:「かわいさ監修」をしてきた西野としても、納得だったと!

『かわいいポケモンの代表格』

それぞれ3人の方の思う、ピカチュウのかわいい部分ってどこですか?

西野:目と顔のバランスと、ぽっちゃりした感じですね。あと、手足がちょこんとしていて小さいのもいいですね。

にしだ:自分でデザインしてこだわった、ほお袋ですね。

杉森:直線的なしっぽの形状がクールな部分を感じさせながらも、「かわいくて強い」ということが表現されていると思います。

ところで、みなさん、それぞれ好きなポケモンは何ですか?

にしだ:リザードンですね。ドットで描いたときにかっこよくて。男の子が喜ぶかっこよさが詰まっています。

西野:ピッピとカビゴンですね。

杉森:僕がデザインしたピッピは、かわいいポケモンの代表格だと思っていたのに、みごとにピカチュウに抜かれてしまって……(笑)。好きなポケモンはゲンガーです。不気味でカッコイイところが気に入っています。

『じゃあゲームもやってみよう』

おととしの夏に出た「ポケモンGO」で、さらに裾野が広がったような気がします。

西野:『ポケットモンスター』シリーズを遊んでこなかったような、幅広い層の人にやってもらえている気がします。

杉森:『ポケットモンスター』シリーズは毎作、間口を広げて作っているつもりではあるんですけど、ロールプレイングゲームという仕組み自体が、普段ゲームをやらない人にとっては馴染みが薄く、また、そもそもゲーム機を買わないとプレイできないという制限もあるわけですが、スマホゲームということで、こんなにプレイ人口が広がるものかと驚きました。
『赤・緑』開発当時、ポケモンたちをシンプルにデザインしておいたおかげで、「わかりやすい」ってことが、普段熱心にゲームをされないような人たちにも届いているのでしょうか。

今やピカチュウは世界的にも有名ですよね。

にしだ:描き手としては、常に「かわいがってもらえる」キャラクターになるよう制作していますが、今ではピカチュウはオンリーワンの存在になっていますね。西野さんの首を縦に振らせようと頑張った結果、世界的な人気につながったことには驚いています。

杉森:やはりデザインとして、わかりやすかったのかなって思います。もしもリッチな環境で作っていたとしたら、もっと細かく、カラフルにデザインできていたかもしれないけど、ゲームボーイという、色が表現できず、解像度も粗いハードで、制限のあった時代のゲーム出身のキャラクターだからこそ、単純な形状や配色で特徴を出していったのが、今でも広く愛されることに繋がったのでしょうか。

なるほど。

杉森:そもそも、いま、世の中はキャラクターだらけになっていますよね。スマホゲームやゆるキャラなど、ピカチュウが誕生した頃に比べて、キャラクターの数は100万倍ぐらいになっているのではないかと感じています(笑)。なので、これからピカチュウのような存在を狙って生み出すのは、なかなか難しいかもなあとも感じています。ゲームが大好きで、なおかつゲームを作っている人間の僕らにとっては、まずピカチュウの存在を知ってもらい、「ゲームのキャラクターだったんだ、じゃあゲームもやってみよう」という感じで、実際にゲームも遊んでもらえると、とてもうれしいです。

にしだ:『ポケットモンスター』シリーズを遊んでいただいて、よりいっそうピカチュウのことを好きになってくれるとうれしいです。

『ポケットモンスター』もシリーズを重ねて、ポケモンの種類がすごいことになっていますよね。

杉森:こんなに長く続くとは思っていなかったですね。パート2ぐらいは行くかもしれませんでしたが、そんなもんだろうって思っていました。

こんなにたくさんのポケモンがいる中、今後のピカチュウに期待することは?

にしださん:いろんな世代の人にゲームをプレイしてもらって、違う世代であってもゲームやピカチュウの存在を通じて会話が増えていくといいですね。

西野:ピカチュウには、もう十分頑張ってもらっているので(笑)。『ポケットモンスター』シリーズには、ピカチュウだけではなく、ほかにもたくさんかわいいポケモンがいるので、そこにも注目してほしいですね。

杉森:何かつらい目にあった方の心をなごませるとか、キャラクターにはそんな役割もあると思うので、そういうことにポケモンが役立ってくれるといいと思います。

おわりに

今回のインタビューを通じて、ピカチュウが「どうやって生まれた」ポケモンだったのか、とてもくわしく知ることができた。そしてわかったのは、3人のクリエイターが大きな愛情を注いだからこそ生まれたポケモンであり、その愛情が、今多くの人に愛されている結果につながっているということだ。
今後も活躍の場を広げていくピカチュウ。これから我々は、いったいどんなピカチュウと出会うことができるだろうか—

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